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賃貸物件がある場合

賃貸物件では、貸している場合と借りている場合の二通りが考えられます。

遺言書がない共同相続の場合の不動産の遺産分割前の法的状態については特に不動産の管理のところで解説しました。

それなので、ここでは、

①貸している物件(賃貸物件の所有権)を相続で取得した場合

②物件を借りていられる権利(賃借権)を相続で取得した場合

について、相続で取得後にどう振舞ったらよいか、を解説します。


①貸している物件(賃貸物件の所有権)を相続で取得した場合

賃貸借契約の「貸主の地位」は、物件を貸す義務が中心的ですが、一方で賃料を請求できる権利が発生するなど、権利と義務の両方が含まれます。

具体的な義務は賃貸借契約書で詳細に記載されることが多いですが、典型的な賃貸借契約では貸主・借主に次のような権利義務が生じています。

  貸主        借主
 賃料請求     管理する義務
 貸す義務     使う権利
 修繕義務

遺産分割の必要がない?のところで解説しましたが、賃貸借契約の地位は、貸主も借主も不可分債権・不可分債務と考えられています。

そのため、相続が開始しても、被相続人の権利が分割されて承継されるのでなく、共同相続人に不可分に帰属します。

それがどういう結果を導くか、ですがこれを考えるには「賃貸人の地位」についてその権利と義務について一つ一つ考えていくほかありません。

まず、義務から検討してみます。

遺産分割は共同相続人間で権利を配分することはできますが、義務は(権利者という相手に対しては)共同相続人の間で自由に分配することはできません。

もし、相続によって承継した義務を免れたければ、権利者から個別に債務免除を受ける必要があります。

そのため、仮に共同相続人の間で遺産分割をして物件の所有権を誰か一人に取得させたとしても、債務免除のない限り、義務としての貸す債務は相続によって共同相続人が不可分債務として承継したままということになります。

つまり、遺産分割協議で物件を取得しなかった他の共同相続人も貸す義務を免れるわけではないのです。

これを反対に言えば、借主としては共同相続人の誰に対しても、物件を貸し続けるように求める権利があるということになります。

ここまではいいですかね。

さて、次に権利の方を見て行きましょう。

「貸主」は,借主に賃料を請求できる権利を有しています。

貸主に相続が開始したときは,共同相続人が不可分債権として賃料を請求できる権利を承継します。

不可分債権として権利を有しているということの意味は、共同相続人の誰でも、賃料の全額を借主に請求できるという意味です。

もちろん、借主としては共同相続人のうちの誰かに全額を支払えば、それで済みます。

全員に重ねて支払う必要はありません。

では、そういう貸主の共同相続人が遺産分割協議をした場合には、どうなるでしょう。

おそらく、遺産分割協議で物件の所有権を取得した者が、その後、貸主として振舞っていくということが協議の中で決まっているはずです。

すると、不可分債権であった賃料を請求する権利は、物件の所有権を取得した者にだけ帰属するようになり、他の共同相続人はその権利を失います。

ここまでくると、権利義務関係としてはこうなります。

貸す義務は共同相続人に不可分債務として残りながら、賃料を請求する権利は遺産分割協議で物件を取得した者にのみ帰属する、という状況です。

さて、このことを借りるほうから見るとどうなるでしょう。

借りるほうとしては、賃料を請求してくる人が定まりました。

しかも、その者は物件の所有権を取得しています。

借主としては、もはや遺産分割で所有権を得なかった他の共同相続人に対して、貸す義務を履行するように請求する必要性はなくなります。

そこで借主としてもこう考えます。

物件を取得した者を貸主として考えれば足りる、と。

ここにおいて両者の思惑が一致します。

貸主としては、被相続人と借主との間で結ばれた賃貸借契約書のまま契約を継続しても良いですが、もしも将来契約の紛争にでもなった際には、いちいち相続の関係から主張立証していくのは面倒です。

そのため、仮に賃貸借契約書の条項になんら変化がなくとも、自らを賃貸人として定めた賃貸借契約書を締結しておくことが便利です。

一方、借主としても、将来、敷金の返還などの貸主の義務を履行するよう請求するような場合には貸主が定まっていたほうが、そのときになって貸主の相続関係を立証する必要もなく便利です。

そういう両者の意思が合致して、結局、遺産分割協議で物件の所有者が確定した場合にはその者を貸主として新たに賃貸借契約を締結するということになるのです。

結論。

遺産分割協議によって物件を所有することになった人は、登記を済ませた上で、借主との間で新たに賃貸借契約を締結するようにしましょう。

ということです。

なお、必ずしも物件を所有している人が貸主になる必要はありませんが(他人物賃貸といいます)そのお話はやめておきます。

②物件を借りていられる権利(賃借権)を相続で取得した場合

賃借権の相続も、基本は先ほどの解説の裏表ですので、ほぼ同じです。

ただ、貸主の相続の場合と違うのは、賃借権の相続の場合には実際に利用する人が変わるということで、貸主側の当初の想定を超える事態が生じることもある、ということです。

賃借権が相続されるというのは包括承継(ほうかつしょうけい)と呼ばれ、又貸しや賃借権の譲渡とは違って、賃貸人の承諾は必要とされていません。

しかし、実際に使う人が変わったことで、契約書に書かれていない利用方法の口約束があったり、個人的な信頼関係で貸していたもので見ず知らずの人には貸したくないという貸主の気持もあったりで、スムーズにいかないケースも見られます。

相続で貸主・借主の地位を承継した場合に、上でみたように両者が合理的に判断して契約書を再締結すれば明確になる部分も多いですが、理論的には、双方とも新たな賃貸借契約書を結ぶ義務はありませんので、なんらかのいきさつで契約書の締結を拒まれた場合は,あくまで民法上の権利・義務が承継されているという相続の理論をベースに,今後の交渉をするほかはありません。

最後に、タダで貸していた、タダで借りていたという使用貸借(しようたいしゃく)のお話をしなければなりません。

相続人じゃないと退去?のところで解説したように、使用貸借の場合は、有償(ゆうしょう:対価を払っているという意味)の賃貸借とは扱いが異なります。

条文を見てみましょう。

(借主の死亡による使用貸借の終了) 第五百九十九条

使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。

なんとあっさり。

借りている人が亡くなれば、即、返さなければなりません。(なので、そもそも使用貸借か賃貸借か、の分かれ目が大事なのですが)

反対に、貸している人が亡くなった場合のことは書いていないので、そのまま終わりまで貸し続けることになります。

終わりまで?

では、使用貸借はいつ終わるのでしょうか?

使用貸借が、賃貸借のように解除の理由が制限されているといった保護がないので、民法の規定に従って、場合によってはあっさり終了して返還の運びになることがあります。

せっかくなので、使用貸借の終了に関する民法の条文を見てみましょう。

(借用物の返還の時期)第五百九十七条

  借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。

2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。

3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。

ちょっと読みにくいですが、

①期間を定めた場合は、期間終了時。
②期間を定めなかった場合は、目的のために使い終わったとき。ただし,使い終わってなくても、普通使い終わるでしょ、って期間を経過したとき。
③期間や目的を定めなかった場合は,貸主が求めたときに返還。

というルールです。

①は分かりやすいですよね。来月末までとか。

②は車の修理のために代車を借りたとか。普通は修理が終わるでしょ、って期間が過ぎれば、返せと言われそうです。

③期間も目的もなく貸した場合は、いつでも返してもらえます。

使用貸借でよくあるのが、妻の実家の土地に家を建てた後、離婚したというケース。

誰も住まなくなり、住宅ロ-ンの返済もあるので、建物を他人に貸したら、地主である元義父が怒って土地の返還を求められたってこと、ありがちですよね。

そもそも使用貸借、つまりタダで貸すということ自体が、個人的なつながりの中で事情があってなされるものがほとんどですから、使用貸借の経緯や目的は様々で、かつ、わざわざ契約書にしていないケースも多く、紛争も多種多様です。

なので、このケースでも答えは一様ではありません。

相続とは関係しないかもしれませんが、深刻な場合にはご相談を。