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相続分の譲渡・放棄

ここで急に相続分の譲渡・放棄の話をするのも唐突ですが、ほかに場所もなさそうなのでやりましょう。

相続分の譲渡・放棄、という考え方を理解するには、いくつかの前提を理解しなければなりません。

まず、相続の放棄、いわゆる相続放棄とはまったく別ものです。

相続分の放棄と相続放棄、ほら「分の」が違いますね。

相続分の放棄というのは、相続放棄とは別ものなのです(二度目)。

早く解説しろよ、という声が聞こえてきそうなので、はじめましょう。

まず、ここでいう相続分というのは、これまで解説した

   法定相続分
     ↓ 
寄与分の算出/特別受益の算出
  ↓      ↓
寄与分の控除/持ち戻し計算
     ↓
   みなし相続財産
     ↓
   具体的相続分

で言うところの、具体的相続分のことと考えてよいでしょう。

では、まず、相続分の譲渡について解説します。

相続分とは「各共同相続人が遺産全体の上に持つ包括的持分または相続人の地位」のことをいい、これを譲渡するを相続分の譲渡と言います。

譲渡する相手は、他の相続人でも、まったくの他人でもOKです。

また、全部でなくても、自分の相続分の半分、とかの一部譲渡も可能とされています。

もちろん、遺産分割協議の後では「相続分 → 固有の財産権」と変化してしまっているので相続分を譲渡することはできません(相続財産の一部についてのみ遺産分割協議があった場合は、残りの相続分について譲渡可能です)。

そして、譲渡を受けた人は、譲渡を受けた相続分を持つ相続人として振る舞うことができます。

家族でもない人が相続人として振る舞うというのですから、大変な制度です。

なにしろ、相続人として振る舞えるということは、相続財産を共有し、遺産分割協議に参加する資格がある(反対に言えば、参加させなければ遺産分割協議が成立しない)ということです。

最判平成13年7月10日
共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。このように、相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は、持分割合の数値が異なるだけで、相続によって取得した地位と本質的に異なるものではない。

ただ、譲渡をした側も、全部譲渡した場合には遺産分割協議に参加する資格を失いますが、相続人として債権者に対して相続債務を負うことまで免れることができるわけではありません。

なお、寄与分について、相続分を譲渡した際に一緒に譲渡されない(寄与分の一身専属性)という考え方もあるようですが、一緒に譲渡されるという考え方で良いようです。

では、いったいどういう場合に使われるのでしょうか。

例えば、兄弟三人で相続の争いをしていて、遺産の中の不動産をどちらが取得するか、長男と次男が争っているとします。

そんな中、不動産について興味のない三男は、はやく現金がもらえないかな、と考えて、次男に相続分を売ってしまいました、という場面です。

相続においては、遺産分割が済むまで、どの遺産を誰がもらうか決まらず、いわゆる共有のような状態になります。

そのため、早くイチ抜けたをしたい人は、相続する権利という抽象的なものを抽象的なまま譲渡することも可能とする制度なのです。

もちろん、相続分は売ってもよし、タダであげてもよし、です。

なるほど、便利だな・・と思うのは、譲渡しようとする側。

もしも赤の他人に譲渡された日には、他の相続人はびっくりです。

なにしろ、兄弟で争っていたはずの遺産を、赤の他人が取得してしまうかもしれなくなります。

あぁ、こんなことならもめなきゃ良かった・・という場面ですが、さすがに民法はそこまで冷たくありません。

では、やさしい民法の条文を見てみましょう。

(相続分の取戻権) 第九百五条

  共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。

とあります。よかったですね。

ここで「第三者」と書かれているのは、相続人(包括受遺者も含む)じゃない人のことです。

相続分を譲り受ける(取り戻す)ことができるとあるので、第三者のほうは拒めません。

ただし、タダで取り上げることまでは出来ず、きちんと払うものは払って返してもらうことになります。

仮に第三者がタダで相続分をもらっていても、取り戻す時にはきちんと払う必要があるのは変りません。

相続分としてそれだけの価値があるのですから、仕方がないですね。

この権利は、一か月以内に行使しなさい、と書いてありますので判断は急いでくださいね。

相続分の譲渡は他の相続人に通知があったときに効力が生じるという考え方が一般的ですので、相続分が譲渡されたと通知されたら(もし通知がなくても、念のため、知ったらすぐに)、取戻しをするかしないかを考えて、取り戻す場合には1か月以内に、譲り渡せーと通知しなくてはなりません。

あぶないところでしたね。 ただ、実際には相続分の譲渡を受ける赤の他人は、少ないものです。

というのも、個別の財産の譲渡を受けるのでなく、抽象的な地位としての相続分の譲渡を受けてしまうと、プラスの遺産だけでなく、マイナスの遺産、つまり借金までもその身に背負うことになるからです。

相続を話し合ってる途中で、今後、どんな借金が見つからないとも限らないのですから、普通はそんな厄介ごとには首を突っ込まないものです。

まぁ、それでも厄介ごとに首を突っ込む人もいるので、先ほどの取り戻しが認められてるともいえるのですが。

ついでに、もう一つ。

相続分をAさんに譲渡した後、同じく、相続分をBさんに譲渡した場合はどうか、という問題。

相続分を二重に譲渡しているわけです。

同じものを二人に売っていたとすると、ほとんど詐欺でしょう。

ですが、詐欺だと言ったところで、AさんとBさんとの間では、どちらが譲り受けたか決着をつけなければなりません。

二重譲渡というと不動産の場合を思い出しますが(法学部の学生は)、不動産の二重譲渡の問題では登記を先に備えたほうが勝つという基本ルールがありました。

しかし、抽象的な権利としての相続分には登記制度もなく、結論から言うと、相続分の二重譲渡は「先に譲渡を受けた方が勝ち」です。

最終的には、どちらが先に譲り受けたかの立証の問題になりそうです。


おっと、忘れてはいけません。

相続分の放棄、のお話もします。

実は、相続分の放棄という法律の制度はありません。

えっ

ないのです。もちろん相続放棄とは違いますよ(三度目)。

相続分の放棄とは、相続した後に遺産分割協議の途中で、自分はいらないよ、もしくは、あまり皆とかかわり合いになりたくない、という人のために実務上生みだされたもので、相続分の譲渡と別個に存在する制度ではないのです。

具体的にいうと、相続分を放棄する、という意思表示をすることで、その相続人の相続分を他の相続人(正確には、同一系統の相続人。兄弟とか)に「法定相続分の割合で」譲ってあげるという効果を持ちます。

そういう効果を持つ相続分の譲渡だと考えてください。

相続分を放棄(譲渡)したからといって、相続をしていることに変わりはないので、借金などの負債がある場合には、それを法定相続分に従って背負っていることも変わりありません(ここが相続放棄と違うところです。四度目)。

実際の遺産分割調停などでは、調停の初めか途中で、相続分放棄の証明書が出されれば、その相続人はその後手続きには加わらず、他の相続人だけで手続きが進められていきます。

本当にかかわりたくなければ相続放棄をすればよいですし、意中の人の相続分を増やしてあげたければ相続分の譲渡をすればよいので、あまり使われないのですが、それでも、相続の協議の行きがかり上、みんなに公平な形で抜けたい、という要請もあるので実務上取られている手法なのです。


相続分の譲渡・放棄のこと、なんとなくわかりました?