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生命保険金は無関係?

日本では90パーセント近い家庭で何らかの生命保険に加入しているといわれます。

生保レディを駆使した営業が隅々まで行き届いていることも理由の一つですが、生命保険には制度上いくつかの特典があります。

相続に関係する部分で言うと、まず、相続税の非課税枠の特典があります。

また、生命保険金は相続財産とは区別されて考えられていますので、もらう側にしてみれば遺産分割協議のいらない便利なものといえます。

では、この生命保険、相続の手続きの中ではどのように扱われているのでしょうか。


まず基本的なことから確認していきましょう。

生命保険の契約をする際には、次の三人の人物が登場します。

一人目は、契約者  保険金を払う人です。
二人目は、被保険者 保険をかけられた人です。
三人目は、受取人  保険を受け取るよう指定された人です。

自分が、自分に掛ける生命保険に加入して、死亡の場合は妻を受取人に指定するといったケースが一番多いのでしょうね。

ただ、受取人の指定の方法は、配偶者などの具体的な人を指定するだけでなく、次の三種類が可能です。なお、契約者は、受取人の指定をいつでも変更することができます。

A 「○さん」として、具体的な氏名で特定しておく
B 「相続人」として自分が亡くなったときの相続人という意味の指定
C 「契約者」として、契約者である自分を受取人にしておく

この三種類があって、実は相続手続きではこの受取人の指定方法の違いによって取り扱いが異なります。

結論を先に言ってしまいましょう。

A、Bのケースでは、保険金の請求権は、受取人の固有の権利として認められていて、相続財産とはみられていません。

つまり、相続とは別に、遺産分割協議などをしなくても、自分の権利としてもらえるということです。

Aの場合は、まさに○さんが全部もらえます。

Bの場合は、相続人にそれぞれ平等に(相続分に応じてという考え方もあるようです)もらえます。

それなので、保険金の受取人は、各々必要な書類を提出して保険金を受け取る手続きをすれば、保険金は自分の口座に受け取ることができる、ということになります。

これは固有の権利なので、仮に、相続人でもある受取人が、事情があって相続を放棄した場合でも、受取人に指定されていた保険金を受け取ることに何の影響もありません。

これが、生命保険金は遺産分割協議とは関係ない、といわれる所以です。

どうしてそういうことになるのでしょうか?

これは生命保険自体が本人のためというより、むしろ受取人のために積んでおくという意味合いが強いためです。

法律ではこれを、第三者のためにする契約、といいます。

もともと契約者が第三者のためにかけていた保険ですので、その権利は、受取人の財産というわけです。

生命保険では、受取人を夫(妻)に指定しておくということが往々にしてなされます。

これは、Cの場合のように、受取人を「契約者」としておくと、相続人が遺産分割協議が済むまで保険金の請求ができないということになりますので、それを避けるため、というのも理由の一つです。

なので、逆に言うと、Cの場合では、そういった不便があることを覚悟しつつそれでもなお保険金も自分の財産として遺産分割の中で扱ってね、という意思を明確にしたといえますので、相続財産として扱われることになるものと思われます。

なお、生命保険金は民法上は相続財産として扱われない場合でも、相続税ではみなし相続財産といって、相続税の計算根拠に算入されます。

ただ、最初に書いたように、相続税の計算根拠に算入はされるものの、相続税の非課税枠の特典も設けられていて、普通に相続するよりも生命保険は得をするようにはなっています。

ここまでが生命保険金の扱いの基本ルールです。

さて、「よくわかりました。保険金は別枠なんですね。それはわかりやすい」と納得していただいても良いのですが、実際にはそれが不公平を生じさせることもあるわけです。

それはどういう場合かというと・・・

例えば、お父さんは宵越しのお金を持たない人で、亡くなったときは一文無しのきれいさっぱりというケース。
兄弟みんなで、お父さんらしいなぁ、と感心していると、妹が「私を受取人にした保険金が1億円下りるのよ。昨日振り込まれたから」と、言うではありませんか!
なんと!言葉もありませんね。

兄弟 「ちょちょ、それをみんなで分けるんじゃねぇのかい?」

妹  「残念。保険金の受取人は私よ。これは相続財産じゃなくて、私の財産なの」

兄  「おぅふ。そうはいっても、保険金の掛け金は誰が払ってたんだい?生前にそれを親が払っていてお前が保険金を受け取るんじゃ、不公平だろ」

弟  「そうだ。そういうのは特別受益っていうんじゃないのか?」

妹  「お父さんが掛けてたのよ。ふん。せせらぎ法律事務所のホームページをよく読みなさいよ。特別受益でもらいすぎたって、もらったものを返すまではしなくていいって書いてあるじゃない」

兄  「がーん」

弟  「ちょっとまった。そういう場合でも遺留分が残るはずさ。俺たちが遺留分を行使すればお前はその分を返さなければならないはずさ」

妹  「そ、そうなのかしら?」

とまぁ、大変ですね。

遺産がそれしかないのですから、もめるのも無理はないですね。

父親の生活費を受取人以外の人が出していたりすれば、なおさらです。

この点は、最近の裁判例があって、それでもやはり生命保険金は受取人の固有の財産とされています。

最判平成16年10月29日
被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は、その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産に属するものではないというべきである(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)。また、死亡保険金請求権は、被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから、実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない(最高裁平成11年(受)第1136号同14年11月5日第一小法廷判決・民集56巻8号2069頁参照)。したがって、上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。もっとも、上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。

通常は特別受益にもあたらないとされていて、原則的には妹の勝ちです。

ただ例外的に、相続人の不公平が著しい場合には特別受益としてみる場合もある(類推適用)と判断しています。

ただ、特別受益に関しては妹の言うとおりで、もらいすぎたものを吐き出すまでは求められていません。

上のケースでも生命保険金を吐き出す必要はなさそうです。

ただし、もし別のケースで、保険金以外の相続財産が1億あって、そのほかに妹が保険金を1億もらっていたような場合には、妹が受領した生命保険金が特別受益と認められた場合には、1億円の遺産相続に関しては、妹には相続分がなく、兄弟で5000万円ずつ分けられる、という結論になるかもしれませんね。

生命保険金の特別受益に関してはそういうことになってます。


では、遺留分についてはどうなるでしょう?

特別受益のところで解説したように、特別受益の問題と遺留分の問題は、別の問題です(ここのあたりで頭がこんがらがりますが)。

この生命保険金と遺留分との考え方は、実は意見が割れています。

裁判例は、特別受益と同じように、遺留分も認めない、という判断が多いようですが、学者の間には遺留分は認めてもいいのではないかという意見も多いようです。

最判平成14年11月5日
自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと解するのが相当である。けだし、死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産を構成するものではないというべきであり(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)、また、死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであって、死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできないからである。

上の兄妹のケースでは、相続財産がゼロで保険金が1億円ですから、いっちょ遺留分を行使して、調停や裁判に打って出てもよいかもしれません。

もちろん、過去の裁判例は否定的ですので、どうなるかはわかりませんが。


少しまとめましょう。

①保険金は、受取人が指定してあれば、相続人同士で話し合わなくても良い。

②相続放棄をしても、保険金の受取人は、保険を受け取ってよい。

③保険金を受け取ったことは、原則としては特別受益にならない。ただし、例外もある。

④保険金にも相続税がかかるが、特例がある。

親が借金しか残さなかったけど、保険金の受取人を自分にしてくれた、というような場合は、喜んでもらってください。

その上で、相続放棄も忘れずに。

注意点は、それほど保険金の受取人が誰かというのは大事ですから、親の生前に「受取人を自分にして」合戦が繰り広げられることもしばしば、というわけです。

保険って、不思議なものですね。