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分割前はどうなってる?

さて、ここでは「相続が開始してから遺産分割が終わるまでの間」に相続財産はどうなってるの?を解説していきます。

ここは様々な法律概念と第三者も含めた利害関係が交錯する場面で、もっぱら理屈の部分です(ので、解説もダラダラとつまらないです)。

また、相続人が一人だったり、遺言書で相続財産の全部について共有にならないように分割方法の指定があったりすると、ここでの理屈は問題になりません。

それ以外の場合には、ここでの理屈がその後の相続財産の管理や相続手続に影響するので、頑張って書きますが(つまらないので)あまり興味がなければ読み飛ばしてもらっても良いです。

先も長いので、さっそく行ってみましょう。


まず、確認から。

民法は、相続という制度を作って、亡くなった人の相続財産を相続人に承継させることにしました。

ですが、それだけでは誰がどう相続するのか決まりませんので、相続人ごとに相続分というのを決めて分けさせることにしています。

ここまではいいですよね。

そして、相続は「当然に」承継しているのですから、被相続人が亡くなった時点で、遺産分割をしていなくても相続をしています。

では、相続分という割合に応じて相続したはずの相続財産は、どのように相続されているのか。

結論を言うと、一つ一つの相続財産がすべて、相続人の相続分に応じて共有されている、と考えることになるわけです。

民法はそのことを条文にしています。

(共同相続の効力) 第八百九十八条

  相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

第八百九十九条

  各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

条文もこのくらい短いと、わかりやすいですね。

例えば、相続人が二人で相続財産の指輪が10個あれば、10個ともが相続人2人の共有、ということ。

その後、どれをどっちがもらうか話し合って(遺産分割協議)、遺産分割をしていきます。

相続人が複数いる場合に、亡くなった人の財産を時系列で順を追っていくと、

亡くなった人の固有の財産
  ↓
(相続開始)
  ↓
相続人が共有する相続財産
  ↓
(遺産分割)
  ↓
相続人の固有の財産

と、変化を遂げていくわけです(遺産分割によって相続開始にさかのぼって効力が生じる、という理屈はさておいて)。

もちろん、相続人が一人の場合は分割する必要もないので、途中の共有状態はありません。


さて、これだけなら分かりやすい(?)のですが、ここからが本番です。

この共有は、普通の意味の共有とは違う、と学者の間では言われています(本当は、その解説をしなければならないのですが、思い切ってその解説は省きます)。

ただ、判例は民法の共有と同じという判例を出したままになっています。

このあたりは法律の世界の面白い(ややこしい)ところです。

最判昭和30年5月31日
相続財産の共有(民法八九八条、旧法一〇〇二条)は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解すべきである。相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するとした新法についての当裁判所の判例(昭和二七年(オ)一一一九号同二九年四月八日第一小法廷判決、集八巻八一九頁)及び旧法についての大審院の同趣旨の判例(大正九年一二月二二日判決、録二六輯二〇六二頁)は、いずれもこの解釈を前提とするものというべきである。

では、具体的に、相続財産の種類ごとに、相続人が複数の場合にはどのように共有されるのかを見ていきましょう。

まず、指輪の例が出たので、物に対する所有権から解説します。

民法の世界では、物(もの)のことを物(ぶつ)と呼びます。

物には、不動産と動産があります。

不動産以外の物を、動産(どうさん)といいます。

例えば、指輪とかテレビとか、車とか。

不動産などは登記がありますので、登記簿をみて誰の所有か判断することになりますが、指輪やテレビは、ただそこにあるテレビって感じで、誰のものかは本当はよくわかりませんよね(借りてるかもしれないし)。

目には見えませんが、実際に被相続人の所有であれば、相続人に所有権が相続されます。

そして、相続人が複数であれば、共有されます。

さて、ここで民法の共有の説明をしなければなりません。

共有している場合、どう振舞えばいいのか、簡単にルールを説明します。

①共有している人は、その物の全体を、共有の持分に応じて使用してよい。

テレビを一人で見ても良い。ただ、他の相続人が、私にも相続分だけ使わせて、と言ってきた場合には、全体を相続分だけ使わせてあげなければなりません。

②共有している人は、他の人に勝手に、物を処分してはいけない。

→テレビを勝手に捨てちゃダメ。改造してラジオにしちゃうのもダメです。

③共有している人は、あわせて過半数の持分をもつ者が同意すれば、管理に関することはできる。

→人に貸すとか、デジタル放送も受信できるように部品を付けるとかは、過半数の人がいいっていうならOK。

④共有している人は、保存に関することは、一人でもできる。

→テレビが故障したので修理する、誰か勝手に持って行っちゃったので取り返すなど、は一人でもOK。

まぁ、ルールはそんなところです。

遺産分割協議が終わるまでは、共有する相続財産として、そういう状態が続くわけです。


では、そうはいっても相続人の一人が、テレビをリサイクルショップに売ってしまったら、どうしましょう。

共有ですから、相続人の一人が勝手に売ってしまうことはできません。

できません、といっても、実際にはできちゃいます。

実際にテレビを持ち込まれたリサイクルショップの人は、それが亡き父の遺品でまだ遺産分割が済んでいないものだ、なんて気付かないからです。

テレビには名前は書いてありませんし、「相続で共有中」などと登録する国の制度もありませんしね。

そうしたことを知らないで買った人のところにあとから他の相続人が来て、返せ返せと言われるのもかわいそうです。

そのため、知らないで買った人は、即時取得という民法の別の制度で保護されることになってます。

ただ、共有している人の間では、勝手に処分するのは禁止事項ですから、損害賠償や遺産分割協議のときに精算したりして、解決することになるでしょう。

そういうことになります。


では、動産の中でも、国の登録制度がある自動車の場合はどうでしょう。

自動車には自動車検査登録制度があります。

手続の種類などは、そのほかの名義変更で解説していますのでそちらを参照してください。

遺産分割協議が済んでいない場合には、共同相続の登録申請をしておけば、遺産分割協議前で相続人が共有していることが、公的に確認されます。

共同相続をした共有名義であれば、その中の誰か一人が車を中古車屋さんに持ち込んだとしても、その車検証を見た中古車屋さんは(まともな業者であれば)、他の人の実印と印鑑証明書も持ってきてくれ、といいますのでテレビのようには勝手に売れないということになります。

では、相続人の一人が、自動車の全部を勝手に売ることはできないとしても、自分の共有持分だけを売却しようとしたらどうでしょう?

共有している相続財産について自分の共有持分を売却しちゃう場合の扱い、という問題です。

これは相続分の譲渡とはまた違う問題です。

不動産のときにも同じ問題があるので、次に不動産の場合を解説しながらその問題に答えましょう。


不動産には登記制度がありますので、自動車と状況は似ています。

相続人は、相続を原因とする共有の登記(共同相続登記)をすることができます。

共同相続登記というのは、その不動産の所有者に相続が開始していて、これこれという相続人が共有している状態ですよ、ということを公示(こうじ)する登記です。

それによって「相続は起きていて、ただし遺産分割前の共有状態ですよ」ということが登記簿に載って、それを誰でも見れることになります。

相続を原因とする登記がされていて共有になっていれば、相続人のうちの誰かが、亡くなった被相続人の実印や印鑑証明を持ち出して(全体を)勝手に売るということはできなくなります。

その後、実際に遺産分割協議で、その不動産について誰が相続するか決まったら、遺産分割の登記をすることになるわけです。

つまり、

 被相続人の登記 → 共同相続の登記 → 遺産分割の登記

という順番です。

相続人が一人だったり、共同相続の登記をしないままに遺産分割協議が決まった場合には、共同相続の登記はされません。

その場合は、

 被相続人の登記 → 相続の登記

で終了します。

相続が開始して、共有状態になり、遺産分割協議で誰かの財産であることが確定する、という権利の流れに登記も沿っているというわけです。

では、先ほど自動車のところで問題になった、自分の持分を売却しちゃう、ということが可能かどうかのお話です。

結論から言えば、可能です。

相続が開始して、遺産分割協議が決まる前に、自分の持分だけを売却などで処分することもできます。

これは相続分の譲渡とは異なり、その不動産の共有の持分を処分するものです。


例えば、相続人がA、B、Cといたとして、相続財産が不動産X、不動産Y、不動産Zとあったとします。

相続が開始すると、不動産X、Y、Zがすべて、A、B、Cの共有になります。

まだ遺産分割協議が決まらないときに、Aさんが不動産Xに関して持っている持分(3分の1)を売るようなケースです。

不動産Xに関して、共同相続の登記がされていることも、まだされていないこともあるでしょう。

これを買った人(Mさん、とします)は、その持分を取得します。

買った人は、その持分について登記の名義を受けておくことも、受けないこともできます。

登記名義を受けるには、

 被相続人の登記 → 共同相続の登記 → Mさんへ持分の移転登記

となります。

もし、Mさんが持分の移転登記を受けていないと・・・

登記を受けないうちに、遺産分割協議が進んでいって、もしかすると、Aさんが、Mさんを裏切って、遺産分割協議の中で、「不動産Xは、いらないかな」なんていうかもしれません。

ほかの相続人のBさんやCさんが、Mさんが持分を買ったことを知らなければ、「じゃぁ、不動産XはBさんに」なんて遺産分割協議が決まってしまうかもしれません。

そうなっては、Mさんは、遺産分割協議の前にAさんから不動産Xの持分を買っていたことを主張しても、Bさんに負けてしまいます。

Bさんに勝つには、Mさんへの持分の移転登記を受けておかないとならないのです。

上の例ではAさんが、不動産Xについて自分の持分を売却する話でした。


今度は、Aさんが遺産分割協議書などを偽造して、まだ遺産分割協議が決まらない前にAが勝手に単独で相続した登記をしてしまい、それを基にして不動産Xの全体をMさんに売却したというようなケースではどうでしょう。

B、Cは、まだ遺産分割協議も決まってないのに!と、怒りますよね。

相続分に応じて持っていたB、Cの共有持分が、Aによって勝手に売られてしまったわけです。

この場合もMさんが先に登記したから勝ち、といってよいでしょうか。

裁判例は、この場合にはB、Cさんの持分をAさんが売る権利は初めからなかったものなので、Mさんは不動産XのB、Cさんの持分を取得できない、としています。

MさんがB、Cさんより先に登記を取得していてもMさんは勝てません。

Mさんが取得できるのは、Aさんに売る権利のあったAさんの持分だけ、ということになるでしょう。

もちろん、ここでもMさんがその後の遺産分割協議の結果に対して持分を主張するには、先ほどの例と同じように登記を備えておく必要があります。

Aが、遺産分割協議でMさんを裏切るかもしれませんからね。

さて、これらによってAさんの持分だけを得たMさんは、その後、どうしたらよいのでしょう?

Aさんとの間で、売買契約の解除をしたり、損害賠償の責任追及をしたりするでしょうが、取得できた持分だけはもらっておくとする場合には、他の相続人との関係はどうしたらよいのか。

ほかの相続人と遺産分割協議をしたら良いのか、共有者として分割を求めたりしていくのか。

裁判例は、持分を譲り受けた相続人でない第三者は、共有者として振舞えばよいということになっています。

以上は全部、遺産分割協議の前のお話しです。


では、遺産分割協議の後に、AさんがMさんに持分を売ったケースではどうでしょう。

上のケースでは、遺産分割協議で、不動産XはBさんに、と決まっています。

それなのに、遺産分割協議の後で、Aさんが不動産Xの持分を、Mさんに売るなんて、Aさんはとんでもないやつです。

とんでもないやつですが、そういうやつもいないとも限らないので、ルールが決められています。

この場合は、Bさんが相続の登記をするのが早いか、Mさんが持分の移転登記をするのが早いか、早い者勝ちになっています。

Mさんとしては、売主であるAさんの協力の下、不動産Xについて、

 共同相続の登記 → Mさんへの持分の移転登記

を急がなくてはなりません。

Bさんとしては、遺産分割協議に従って、相続の登記もしくは遺産分割の登記を急ぐことになります。

どっちが早いか!

困ったものです。

ちなみに、Aさんには、詐欺などの刑事責任が生じるかもしれませんね。


ここでの問題は、登記の対応問題というもので、民法を勉強すると必ず学ぶ分野(これを解説したがるのが法学部出身の悪いところ)です。

ただ、対抗問題になったとしても登記を取ったからといって必ず勝つかというとそうでもないので、ここまでくると専門家にご相談していただくほかありません。