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遺産分割の必要がない?

さて、次は、債権について考えていきましょう。

まずは、おさらいを。

相続人が複数の場合にどう相続するかには、次の条文がありましたね。

(共同相続の効力) 第八百九十八条

  相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

第八百九十九条

  各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

つまり、「相続が開始すると(当然に承継して)相続人が複数いる場合には相続分に応じて共有」でしたよね。

不動産の所有権などは、共有というと想像がつきやすいのですが、では債権の場合はどうでしょう。

例えば、亡くなった父親は、友人のAさんに貸していたお金があったというケースでは、亡くなった後、兄弟BCは、その貸金債権を共有するのでしょうか?

実は、債権の場合、そう簡単ではありません。

というのも、債権の中にも、色々な種類のもの(貸金債権とか、請負契約での作業をしてもらう債権とか、物を引き渡せという権利とか)があります。

そして、債権の中には、その性質上「分けられる債権」と「分けられない債権」があるのです。

例えば、先ほどの例では、貸金債権というのは100万円を返してもらう権利、というものですから、(50万円を返してもらう権利)+(50万円を返してもらう権利)の二つに分けることができます。

一方、テレビを引き渡せ、というような権利は、そのテレビが一つしかない以上、二つに分けて引き渡すというようなことは不可能です。

そのため、債権には、
 「分けられる権利=可分債権(かぶんさいけん)」と
 「分けられない権利=不可分債権(ふかぶんさいけん)」
があるといわれています。

そして、債権の相続の原則は「分けられるものは、分かれて相続する」です。

では、具体的なものでイメージをつかんでもらいましょう。


まずメジャーなものから。

銀行預金、これは銀行にお金を預けていてそれを引き出す権利があるという意味で、銀行に対する債権です。

被相続人が銀行と契約して預金しているのですから、相続人は、預金債権を相続します。

預金債権は、100万円とかの数字ですので、性質上、相続人の人数で分けることができます。

なので、分かれて相続される、というのがこれまでの実務でした。

しかし、

最判平成28年12月19日
共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。

この判例で、銀行預金などは遺産分割の対象となることになりました。

それなので、銀行などの金融機関は、遺産分割協議書か、払い出しの書類に共同相続人全員の実印と印鑑証明を押したものを提出しないと、払い出しに応じてもらえません。

これまで、各相続人が正式に銀行を訴えれば、各人が相続分について取得できたのですが、この判決以降、そうした対応は取られていないと思います。

親族が交通事故で亡くなった場合に相続した損害賠償請求権も可分債権の代表的なものといえます。

一方、分割できない債権(不可分債権:ふかぶんさいけん)にはどのようなものがあるでしょうか。

例えば、三人で不動産を買ったというようなときに、売主に移転登記に協力してもらう権利(債権)などです。

売主が移転登記に協力する、という行為は分けることができません。

なので、売主に移転登記を協力させる、という権利も分けることができません。

こういう権利は、相続人の全員に、不可分債権として承継されます。

不可分債権の場合は、各相続人は、自分の相続分に限らず、債権全体について行使することができます。

不動産の貸主としての地位に基づいて家賃を請求する権利も不可分債権とされていますので、この場合も、各相続人は、自分の相続分に限らず、家賃全体を請求できるというわけです。

この点についてはあとで補足して、詳しいことは特に不動産の管理で解説します。


続いて、債務です。

債務にも、「分けられる債務=可分債務」と「分けられない債務=不可分債務」があります。

可分債務の代表は、借金ですよね。

1000万円の借金を二人で均等に相続すると、500万円ずつ分かれて相続されます。

分かれて相続されますので、債権者としては各々に500万円ずつしか請求できませんし、支払う側も、自分の相続した500万円を支払えば終わりです。

それに対して、不可分債務は、先ほどの裏返して、登記に協力する義務(債務)などです。

これは各相続人は、全員、義務の全体を果たす義務があることになります。

いずれにしても、債務は遺産分割の対象とはならないので(正確に言うと、相続人の間で「誰がどのくらい負担するか」ということを協議することはできるが「債権者はその協議には拘束されない」ということ)、可分か不可分かの違いはあっても、各相続人がそれ相応の義務を負うことになります。

さて、債権債務については、当事者が多数の場合を詳しく解説しだすと終わらないので、以上でご勘弁を。


まとめます。

①債権債務のうち分割できるものは、それぞれの相続人に相続分に応じて相続される。 そのため、相続が開始すれば、すぐに自分の権利として行使できる(理論上は)。

②債務は、遺産分割の対象とならない。相続人の間では誰が負担するかを話し合うことはできるが、債権者はそれに拘束されない。

③実務上は、可分債権(損害賠償請求権、人に貸しているお金など)といったものをまったく相続から分離して各相続人の勝手に任せるということはあまりない。不動産以外の資産は、遺産分割協議のなかで重要な調整弁でもあるので。なお、銀行預金は判例の変更で遺産分割をしなければならなくなりました。

といったところでしょうかね。


2点ほど補足します。

一つは、賃貸借の権利義務。 もう一つは、現金の相続です。

まず、賃貸借の権利義務について。

貸主が死亡して相続が発生した場合、貸主側の相続人が複数いる場合があります。

このとき、貸主の相続人は「貸す義務」を相続している反面、「賃料債権」も相続しています。

例えば、ある不動産を貸す義務は、分割することはできません。

そのため、貸す義務は、不可分債務として、全員が同じように貸す義務を負います。

その反面、賃料債権も、不可分債権として、全員が同じように請求権を取得します。

貸主側の賃料債権が不可分債権ということは、各債権者(相続人)は、持分にかかわらず全額の賃料を請求できるということを意味します。

一方、支払う側の借主も、その全額請求してきた債権者(相続人)にさえ全額支払えば、他の債権者(相続人)に対してそれ以上に支払う必要はありません。

借主側から「借りる権利」「賃料債務」を見た場合も同様です。

ここはけっこう細かしいので、ぜひ、ご相談にいらしてください。

次に、現金の相続について。

現金は物(ぶつ)なので、バッグや財布などの動産と同じです。

ただ、現金は金額に応じて分けることができるので可分債権のように「分けられるものは、分かれて相続する」ようにも思われます。

しかし、現金は共有となります。

たぶん、紙幣・硬貨の一つ一つを共有する、ということなのでしょう。

共有するということは、遺産分割協議が決まるまで、それぞれが自分のものとして勝手に使うことはできません。

また、この現金は、仮にその後、どこかに預金されても、現金としてのそういった取り扱いの性質は変わらないと考えられています。

なので、現金は遺産分割協議が済むまで、手をつけてはならないのが原則です。

ただ、実際には相続人間の協議の下で葬儀費用などに支出されているということもあるでしょう。

その場合は、現金についてのみ部分的に遺産分割協議をしたと見ることもできるでしょうし、一時立て替えとしてあとで遺産分割協議の中で解決する合意ものとで費消されたとみることもあるのでしょう。


ふぅ

以上です。おつかれさまでした。