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遺産の評価方法

さて、このあたりからは理論を離れて実務的な実践の場面です。

遺産分割の方法・基準で書いたとおり、
 ①具体的相続分の計算のため(主に特別受益の評価)
 ②遺産分割の際の個別の遺産の評価
の二つの場面で遺産の評価が問題となります。

遺産と言っても、現金、銀行預金、自動車、不動産、賃借権、知的所有権など様々なものがあります。

遺産の評価は、その時々の「時価」です。

時価といっても、裁判官が勝手に考える、という意味ではありません。

時価というのは、市場価格といってもよいかもしれません。

もちろん直ちには市場性のないもの(親の経営していた会社の株式)もありますが、これも何らかの客観的な手法で評価していかなければなりません。

では、もっとも問題になる不動産は最後にして、それ以外のものから解説しましょう。


まず、預金。

これは金額そのままで良いでしょう。

ただ、過去に贈与された特別受益を評価する際に、インフレ・デフレを織り込むということはありうるところです。

次に、株式。

証券取引所に上場しているものなら基準時の株価で良いでしょう。

非上場の株式については、純資産方式、収益還元方式、配当還元方式、類似業種比準方式、これらの混合方式とあります。

相続税申告のための計算方法もありますので、それらを参考にして算出します。

算出は税理士や公認会計士に依頼することになるでしょうが、このあたりが争いになるようだと、もはや弁護士を通したほうがよさそうです。

美術品・骨とう品・宝石など。

これは見る人が見ないとわかりませんよね。

なので、もしかして! と思った場合は、テレビ東京に連絡するか、見ることができる人に見てもらいましょう。

人に貸しているお金。

これは微妙です。

何度も説明している通り、貸金は分割債権ですから遺産分割協議の必要がありませんが、協議をすることもできます。

あえて遺産分割協議をした場合には法律的には債権譲渡の扱いになりますので、借主に通知が必要です。

それはともかくとして、貸金を遺産分割協議で得たとしても、どれだけ確実に返済があるのか、を考えなければ額面通りには受け取れません(まさに)。

なので、裁判所が回収率20%と評価した場合、これは額面の20%の価値しかないと評価することになりそうです。

逆に、回収率が争いになるようであれば、遺産分割協議の対象に加えない方が無難でしょう。

思い入れのあるもの

遺産の評価は、基本的には客観的に行われます。

そのため、亡くなった父の形見で子どものころから好きだったダルマ、があったとしても客観的には高い評価は出ないはずです。

ただ、それも動産ですので共有状態です。

そのため、ダルマの奪い合いになれば、最終的には裁判官が審判で結論を出してくれます。

その際に、主観的な重要性というのも加味されることになるのでしょう。


さて、とっておきの不動産についてです。

遺産分割における不動産の評価は、固定資産税評価額(こていしさんぜいひょうかがく)や路線価(ろせんか)を参考にしながら、近隣の不動産業者に売り出し価格の簡単な査定をしてもらったりして、それを参考に協議します。

もちろん、高い方がいい、安い方がいい、という思惑と駆け引きがあるので、依頼主の思惑を反映して、双方の不動産業者が全く違った数字を出してくることもあります。

最終的に双方が評価について折り合わない場合には、不動産鑑定士に正式な鑑定を依頼することになります。

不動産鑑定士の鑑定にはもちろん費用がかかって、簡易な鑑定であれば30万円くらいからでしょうが、不動産の規模が大きかったり複雑な場合には、80万円とかそれ以上かかる場合もあるでしょう。

鑑定費用がそのくらいかかるので、不動産、賃借権、株式などでかなりの評価があると見込まれるもののほかには、不動産鑑定士の正式な鑑定(株式の場合は、税理士や公認会計士)には至らないのが実際です。

相続税の申告をするために路線価で不動産の評価を計算するのですが、遺産分割協議の際もその評価額をそのまま使うこともありえます。

ただ、路線価は実際の時価とは違っているのが一般です。

そのため、時価を算出する際には、市場性を加味するために、やはり不動産業者や不動産鑑定士の意見を参考にする必要があります。

とはいえ、裁判官が審判で遺産分割を決める際は、評価額に関しても不動産鑑定士の意見に拘束されるものではないので、裁判官が勝手に考えて(やっぱり!)、時価を決めて遺産分割をすることも可能です。

さて、評価が問題となる代表例の不動産について、固定資産税評価額や路線価といった言葉が出てきましたね。

これらの公的価格に関しては、以前、小川弁護士(私)が記載したブログがあるようなので、見てみましょうか。

ここから始まる文章は長いので、上の結論で満足された方は飛ばしてください。


価格、というのは物の価値を通貨の単位で表すものです。

売買や賃貸というのは、権利の全部ないし一部を取引相手に供与するものですので、通常、タダというわけにはいきません。

毛皮や宝石と交換してももちろんいいのですが、場所を取らず、どこでも使え、腐らない、金銭と交換してもらうのが一番だということになります。

金銭は、相手との間でも、最も価値観を共有できるのでとても便利です(あたりまえすぎますね)。

いずれにしても、価格というのは、売買、賃貸など権利の動きがある場合に当事者の間で決まるものですので、そういった「取引」を前提にしない「価格」というのはありえません。

ありえません、と書きましたが、実は取引を前提としない「価格」も存在します。

それには、不動産を持ってるだけでとやかく言ってくる「国」が大きく関係します。

国が、私有財産である不動産の価格に関与する場面は、主に二つあります。

一つは、税金を取る際に不動産の価格を基準とする場合。

もう一つは、国が、国民の不動産を収用(没収)したり、損害を与えた際に補償を行う場合です。

そのための基準として、国は土地に関して「公示価格」というものを定めています。

「公示価格」は地価公示法という法律に基づいて定められます。

地価公示法によれば、「公示価格」は、土地鑑定委員会が公示区域内の標準地について、毎年一回、二人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、当該標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定し、これを公示するものとする(第2条。一部省略)とあります。

簡単に言うと、市街地やその周辺のいくつかのポイント(標準地)を、更地で普通に売買したらいくらぐらいかを、毎年二人以上の鑑定士に鑑定させて公表するのですが、実際に公表されていてインターネットで検索できます。

公示価格は、国が定める基準ですが、民間で土地の鑑定を依頼した際も公示価格が規準とされますので、民間の売買をする際にも参考にすることができます。

実際には、取引しようとしている土地と、標準地の中で近くのポイントもしくは似ている環境のポイントを探して、比較対照をしながら評価を割り出していくことになります。

公示価格では全部の土地に評価がされていないのが、後に出てくる固定資産評価額との違いです。

公示価格に似たもので「基準地価格」というものがあります。

公示価格と基準地価格は、価格を定める目的や調査方法はほぼ同じです。

違いは、公示価格が毎年1月1日を基準日とするのに対し、基準地価格は7月1日を基準日とすること。

そのほか、調査するポイントが異なっていて、基準地価格のほうが対象範囲が広げられていることです。

対象範囲は広いですが、反対に、調査ポイントは基準地価格のほうが少ないようです。

基準地価格を定める根拠法は、国土利用計画法施行令(昭和49年政令第387号)で、都道府県が調査主体です。

公示価格が地価公示法8条により民間の鑑定の際にも基準とすることが定められているのと同様に、公示価格のない地域では基準地価格が参照されるようです。

公示価格における標準地の鑑定手法は標準地の鑑定評価の基準に関する省令に定められています。

基準地価格の場合も国土利用計画法施行令にいろいろ書いてありますが、私には読めません。

ひとまず「公示価格」と「基準地価格」は、国などに収用される場合の補償や取引価格の指標として定められていて、価格の指標としては同じようなものということだけ理解して、先に進みましょう。

公的に定められる価格は、まだあります。

まずは、不動産を所有している方には身近な固定資産税。

その税額を決めるための不動産の価格として「固定資産税評価額」が定められています。

固定資産税の課税主体は、その不動産が存在する市町村で、毎年1月1日を賦課期日としてその日に所有者(登記名義人。死亡している場合は所有者)に税が課されます。

税率は標準で1.4%で、だいたいの方は都市計画税と一緒に払わされていますよね。

各不動産の固定資産税評価額は、地方税法388条によって総務大臣が定める固定資産評価基準に従って、市町村で定めます。

固定資産評価基準は、書店で売ってます(全文はインターネットには出ていないようです)。

3年に1度、評価替えがあり、確か平成24年に評価替えがあったように思います。

後に出てくる路線価方式で評価しているはずですが、大量の不動産についてどうやって評価を出しているのか、今度不動産鑑定士に会ったら聞いてみたいと思います。

さて、「固定資産税評価額」は、公示価格の7割程度と言われています。

土地基本法16条が公的な土地評価について均衡と適正を求めているということから、平成6年から7割程度ということになったそうです。

固定資産税評価額は、そのほか、登録免許税・不動産取得税などの課税標準に使われたりもします。

自分の不動産や借りている不動産の固定資産税評価額を知りたければ、閲覧制度があり証明書を発行してもらえます。

本人と借主以外に証明書を取得できないところに不便さがありますが、毎年4月1日から5月末ころまでの間だけ縦覧制度というのがあり、同市町村内の他の不動産の固定資産税評価額を知ることができます。

また、弁護士などの専門家が業務に必要な際(単に知りたいから取ってくれというのはダメです)には、他人の不動産の固定資産評価証明書を取り寄せることができます。

「固定資産税評価額」は個々の不動産ごとに定められているので、「公示価格」や「基準地価格」のようにあるポイントの価格からいろいろと調整して当該土地の価格を知るのではなく、直接的なのが特徴です。

固定資産税評価額はインターネットでは見ることはできず、オープンになっていないのが「公示価格」や「基準地価格」との大きな違いです。

公示価格、基準地価格、固定資産税評価額ときましたので、公的価格の最後は「路線価」です。

路線価は、毎年夏に「財産評価基準書」として国税庁が発表します。

土地一つ一つの価格を出すのではなく、ある道路に面した土地の平米あたりの評価を記載するだけで、該当の土地を評価する際は、それを修正して使うことになります。

路線価は、相続税や贈与税の課税のための評価方法として定められていますが、相続税法のどこを見ても、路線価という言葉は出てきません(ちなみに、贈与税のことも相続税法で定められています)。

相続税法では、財産の評価は「取得の時における時価」(22条)とあり、財産評価基準書は、国税庁が通達(と評価企画官情報)を根拠に作成しているものにすぎませんが、実際に国民が相続税申告をする際の税理士の実務もこの評価方法に従っています。

とはいえ、通達は所詮通達ですので、相続税などの課税に対し、実際の時価はもっと安いはずだと、異議→審査請求→裁判(取消訴訟)で争うこともできます。

ただ、路線価は時価そのものではなく課税のための便宜的な価格と捉えられていることから、たとえば相続が発生したときの前年と翌年を比べて月割で下落率を算出して争う、といった方法は相手にされにくいようです(判例)。

実際の路線価は、公示価格の8割程度の水準にとどめる運用になっていますが、その評価の方法などから時価を上回るケースもあるようで、急激な下落局面では争いも多いのではないかと思います。

もちろん、争うコストに見合うような、高額な不動産の場合がほとんどでしょうが。

さて、公示価格、基準地価格、固定資産税評価額、路線価と公的価格を見てきました。

公的価格は建前として、公示価格・規準地価格が時価、固定資産税評価額はその7割、路線価は8割としていることもわかりました。

しかし、そんな簡単に不動産の価格が決まるなら、誰も苦労しません。

実際の取引価格は、公的価格や市場の動向など様々な要素が勘案されて「取引相場」が形成され、実際に売買されるときになって初めて「取引価格」決まります。

取引価格は、当事者間で「その値段で買う」「よし売った」と合意すれば決まるもので、実は、お互いに奇特な人が現れれば、公的価格や取引相場とは無関係といっても過言ではありません。

ただ、実際にはそういう人が現れて「その値段で買う」と表示するまでは、売り手としても手探りで、当然買い手としては安く買いたいわけなので、入手しうる様々な情報をもとに取引価格の交渉がなされることになります。

多くの場合、両当事者がそれぞれ入手しうる情報は、同一・平等ではなく、それぞれが異なる思惑で売買することになります。

売る理由、買う理由はそれぞれ違うので、双方が自分にとってメリットがある、もしくは、やむを得ない、と思う時に契約が成立するので、公的価格にどの程度依拠するかは、売買の動機にも大きく左右されることになります。

また、一般的に言って、大都市、都市部、都市近郊、山間部、旧市街地、新興住宅地などの地域性により、それぞれ公的価格と取引価格との価格のかい離の態様が異なります。

これは地方によっても違うので、そのあたりの情報・感覚は、地元の不動産業者・不動産鑑定士にあたってみるほかありません。

ここまでくると、抽象的な話でどうしようもないのですが、実際の取引価格には様々な思惑が交錯するのが現実です。

たとえば、買った土地を転売しようという場合、仮に高いなぁと思ってもそれ以上に高くなる見込みがあれば、買いますよね。

たとえば、買った土地を駐車場にして収益を上げようという場合、何台とめられて、月額いくらで、稼働率がどのくらいか計算して、投資の回収を考えますよね。

たとえば、買った土地に自宅を建てて住もうとする場合、いくらの住宅ローンを組んでいつまでに返せるか、周辺の住環境はどうか、取引相場に比べて高い買い物になってないか、などを考えますよね。

たとえば、田んぼを造成して土地を売る場合、造成の費用も考えて売り出し価格を決めますよね。

たとえば、現金が欲しくて土地を売る場合、いくらの現金が欲しいかが値段に影響しますよね。

たとえば、使わない土地に税金を払ってるのが嫌で売る場合、どういう値段なら早く売れるか考えますよね。

そんなこんなで、値段が決まります。

不動産鑑定の理論も、そういったものをベースに構築されているのですが、現実の多様さには及びもつかないでしょう・・


長い!

しかも、公的価格のことだけで、実際の鑑定手法のことは解説していません。

あまり役に立ちそうにない解説でした。

相続も、不動産も、千差万別。

いらないと思っていた田んぼが、市長が代わった途端に宅地になった、とかいうことも無きにしもあらずです。

いろいろと理屈はありますが、相続は考えているだけでは何も解決しません。有能な専門家を味方につけて、行動あるのみ。

いずれにしても、ここまで読んだあなたは立派です。

きっと良いことがあるでしょう。