相続>相続放棄>相続放棄をしたい

相続放棄をしたい

ここでは、相続なんてしたくない、まっぴらごめんだ、という場合のお話です。

いわゆる相続放棄(そうぞくほうき)です。

相続放棄をする理由は、いくつかあります。

一つ目に、借金ばかりで相続すると損をするので放棄する人。
二つ目に、借金がどれだけあるか分からないので、怖くて相続を放棄する人。
三つ目に、もらえるとしても相続なんかに関わりたくない人。

だいたいこの3種類ではないでしょうか。

「私の分はお姉さまに」というのは、おそらく相続分の譲渡であって相続放棄ではありません。

また「私は要りませんから」と言って遺産分割協議書にハンコだけ押す、何も貰わない、というのも、相続放棄ではありません。

相続放棄とは「初めから相続人でなかったことにしてください」ということを家庭裁判所に申述(しんじゅつ)することで初めて利用できる制度です。


では、相続を放棄するにはどうしたらよいのでしょう?

まず、せっかくですから民法を読んでみましょうか。

相続の放棄のところを読んでみると、

(相続の放棄の方式) 第九百三十八条

  相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

(相続の放棄の効力) 第九百三十九条

  相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

とありますね。

なるほど。

相続放棄をしようとする者は、裁判所で申述(しんじゅつ)すれば良いのですね。

申述は、申し述べるということですが、実際には書類で出します。


では、相続放棄の書類を作成してみましょう。

申述書と一緒に、申述が受理されたことの証明書の発行も申請しておくと、便利です。

相続放棄申述書に収入印紙800円を貼って郵便切手を裁判所の指示通りにそろえて、相続放棄申述受理証明申請を同封して、これでOKっと。

あっ、戸籍をそろえるのを忘れてた。

いけね、じゃぁ、来月にでも実家に帰って取ってくるかな。

間に合いますか?

皆さんはご存知ですよね。

相続放棄には期限があることを。

民法の別のところには、

(相続の承認又は放棄をすべき期間) 第九百十五条

  相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

とあります。

例の「3か月」というやつです。

これを熟慮期間と呼んでいます。

「自己のために相続の開始があったことを知った時から」と書いてありますね。

「知った時から」でよさそうです。

では、「何を」知った時からでしょうか?

文言をそのまま読むと、「自己のために相続の開始があったこと」ですから、父親が亡くなったこと、などの事実を知った時からと読めそうです。

ただ、3か月を過ぎた後から膨大な借金が見つかったというような場合はかわいそうだということで、裁判所は、亡くなったことの事実を知った時だけでなく「相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべき時から」でよいという基準を出しています。

最判昭和59年4月27日
熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知つた時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知つた場合であつても、右各事実を知つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。

最判昭和51年7月1日
相続人が数人いる場合には、民法九一五条一項に定める三か月の期間は、相続人がそれぞれ自己のために相続の開始があったことを知った時から各別に進行するものと解するのが相当である。

つまり、3か月を過ぎても、3か月の間に放棄をしなくても無理もないよねという事情がある場合で、あとからとんでもないものが見つかったという場合には相続放棄が可能になる場合があります。

今からでも遅くないので、急いで弁護士に相談してください。

実務的には、3か月を過ぎた相続放棄の申述でも、ちゃんと判例に沿った考え方で事情を説明すれば、ほとんど受理してくれます。

3か月を過ぎても認めた例として、

大阪高裁昭和61年6月16日
家庭裁判所の相続放棄の申述の受理は本来その非訟事件たる性質、及びその審判手続の審理の限界などに照らし、被相続人の死亡時から三か月の期間経過後の放棄申述であっても右の相当な理由を認めるべき特段の事情の主張があり、かつそれが相当と認めうる余地のあるものについては、その実体的事実の有無の判定を訴訟手続に委ね、当該申述が真意に出たものであることを確認したうえ、原則として申述を受理すべきものである。

広島高裁昭和63年10月28日
右認定事実によれば、抗告人らは、亡Aの死亡の事実及びこれにより自己が相続人となつたことを知つた昭和63年1月24日当時、亡Aの相続財産が全く存在しないと信じ、そのためにその時から起算して3か月以内に相続放棄の申述をしなかつたものであつて、しかも○○県信用保証協会からの通知により債務の存在を知るまでの間、これを認識することが著しく困難であつて、相続財産が全く存在しないと信ずるについて相当な理由があると認められるから、民法915条1項本文の熟慮期間は、抗告人らが○○県信用保証協会に対する債務の存在を認識した昭和63年6月7日から起算されるものと解すべきであり、したがつて、抗告人らが同月20日にした本件相続放棄の申述は、熟慮期間内に適法にされたものであるというべきである。

認めなかった例としては、

大阪地裁昭和60年4月11日
前記認定の事実によると、被告Aは、Bとともに本件契約締結に際し被告会社の原告に対する債務の連帯保証人になり、B死亡後は被告会社の代表取締役に就任して被告会社の経営に当り、被告C、同Dも被告会社の取締役に就任していること、被告AらはBの生前からその死亡まで被告会社の本店所在地でもある肩書住所地で同人と同居して生活していたこと、被告AらはBの相続財産である本件土地を同人の死亡後Eに賃貸したこと、昭和五七年七月には本件貸付債権を被担保債権として右土地につき競売開始決定を受けたこと等の事情がうがかわれ、これらの事情を総合すると、被告A(同F、同Gの法定代理人でもある。)、同C、同DはいずれもBの死亡当時同人が被告会社の代表取締役として、積極、消極の財産を有していたことを当然知っていたものと推認されるし、また、たとえ同被告らがBに相続財産が存しないと信じていたとしても、同被告らがBの相続財産の有無を調査することは極めて容易であると考えられるから、同被告らが右のように信ずるについて相当な理由があると認めることも到底できない。

東京高裁昭和62年2月26日
その頃被控訴人Aも同Bから右諸債務の存在状況を知らされていたことが認められ、更に、先に見た被控訴人ら家族の生活状況等に鑑みると、被控訴人Cも、同Aとほぼ同じ頃には右諸債務の存在を知り若しくは少くともそれを知り得べき状況にあったと認めるのが相当であるから、被控訴人らが熟慮期間内に限定承認をしなかったのが、被相続人たる亡Dに相続財産が全く存在しないと信じたためとは認められないのみならず、たとえ被控訴人らのうちにそのように信じた者がいたとしても、先に見た亡Dの生活歴、同人と控訴人らの関係等からみて、そのように信じた被控訴人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があるなどとは到底いえず、そう信じるについて相当な理由があるとは認められないのであって、熟慮期隔の起算点を、被控訴人らが自己のために相続の開始があったことを知った時と異別に解すべき事情は何ら見当らない

福岡高裁昭和62年5月14日
長年月没交渉であつたのではなく、学生時代には月謝や小遺銭をもらいにAの店に出入りしていたのであるから、右Aの生活状態を認識していた筈であり、そうだとすれば、死亡当時、家財道具や借家のほかに何らかの積極消極の財産を残していたのではないかと一応考えるのが一般常識に合致する。これを、Aには不動産や預貯金もなかつたから全く他に遺産がないと信じ、Aの相続財産についてその後は何らの調査もしなかつたとすれば、右被上告人らには右の点について過失があつたというべきである。

なお、予め、ちょっと財産関係が複雑なので3か月では判断しかねます、という場合には家庭裁判所に申し立てをして期間を延長してもらうこともできます。

また、相続放棄では、この3か月の期間制限のほかに、次のことも注意しなければなりません。

また、民法の登場です。

(法定単純承認) 第九百二十一条

  次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

難しいですが、要は、相続したつもりで財産を処分した後で「やっぱり放棄」はだめですよ、ということです。

なので、相続が開始したことを知ったら、相続財産は処分せずに管理だけして、急いで調査をして、放棄するかどうかを3か月以内には判断しなければなりません。

この法定単純承認については、今から放棄できる?のところで詳しく解説します。


さて、ここまではクリアしているという方。

戸籍も揃いましたね。

相続放棄の申述書を裁判所に提出してみましょう。

ちなみに、未成年者が相続放棄をする際は親権者が代理人になります。

そのとき、その親権者も同時に相続人であるとき(例えば、夫が亡くなった場合の妻と子)には、子のみ相続放棄をする場合は特別代理人の選任が必要です。

未成年の子のうち一人だけを相続放棄するというような場合も特別代理人の選任が必要です。

一方で、子も親も同時に全員が相続放棄をする場合には、子に特別代理人を付ける必要はないとされています。

さて、提出する裁判所は、亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

提出すると、後日、家庭裁判所から申述した本人宛に、「相続放棄の申述についての照会書」というのが届きます。

そこには、「なぜ相続を放棄するのか?」などの質問事項が書かれていますので、それに答えて返送します。

この手続きは、相続人が真意で相続放棄をしているのかを確認するものです。

ただ、この手続きが通って裁判所が相続放棄の申述を受理(じゅり)したとしても、だからといって相続放棄が有効なものかどうかが確定するものではありません。

先ほどの説明のように、熟慮期間の起算点は知った時という主観的なものですので、債権者が「お前はもっと前に知ってたはずだ!」といって負債も相続したことを前提に裁判を起こした場合、相続放棄が有効になされたかどうかはその裁判の中で雌雄を決するということになります。

ですが、家庭裁判所に相続放棄が受理されれば 「相続放棄申述受理証明書」 という書類を家庭裁判所が発行してくれますので、一般的には、それを債権者に示せば、多くの債権者にはご納得いただけるでしょう。

この相続放棄申述受理証明書を発行してもらう手続きは、相続放棄の申述とは一応別の手続きですので、証明書を発行してもらうための申請書を、相続放棄の申述書に同封しておくとよいでしょう。

少しまとめてみましょう。

相続放棄は、
 ①自分にとっての相続があったことを知った時から3か月以内にすること。
 ②ただ、思いもしない大きな借金が見つかった時はその時から3か月となる場合もある。
 ③3か月で判断がつかない場合は、期間を延ばしてもらうこともできる。
 ④相続したものとして相続財産を処分しちゃった場合は放棄できない(例外あり)。
 ⑤相続放棄が受理されたとしても、それが有効かどうかは最後は裁判で決まる。
 ⑥相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出する。
 ⑦相続が開始してからでないと放棄できない。
 ⑧相続放棄の申述は、撤回できない(騙された、とかで取り消すのは可)。

というところでしょうか。


最後にもう一つ。

相続放棄がなされると、その人は初めから相続人ではなかったことになります。

そのため、相続人の順序が変わります。

つまり、子が相続放棄した場合は、親にお鉢が回ってきます。

その親も相続放棄した場合(親が既に亡くなっていた場合)には、兄弟姉妹にお鉢が回ってきます。

そこで兄弟姉妹が相続放棄すれば、相続放棄の場合には代襲相続が起きないのでようやく終了です。

なので、相続放棄をした妻や子は、そのことを親兄弟に連絡してあげるというのが親切です。

ただ、そんな親切してあげるつもりもない!という方もいらっしゃるのも事実です。

すると、兄弟姉妹あたりは(親も亡くなっていて)妻子が相続放棄をしていることを全く知らなかった、なんてことも間々あります。

そういう場合には、兄弟姉妹は子が相続放棄をしたことを知った時に、初めて、自分にとっての相続があったことを知ることになります。

なので、そこから3か月が熟慮期間というわけです。

もちろん、他の相続人が放棄したということは・・多くの場合、熟慮してないですぐに相続放棄した方がよさそうです。