相続>相続放棄>何も貰わない=放棄?

何も貰わない=放棄?

すでに色々なところで書いているので繰り返しになりますが、ご容赦を。

遺産分割協議をするご家族の中にはいろいろなご事情で、相続に関しては何も貰わないという方もおられます。

例えば、長男が親から引き継いだ会社経営をしていて、亡くなった父の主な相続財産と言えば「経営の苦しい会社の株式」と「その会社が使っている不動産」だけというケースがあったとします。

長女は、長男が親の面倒を最後まで見たんだから、といって何も貰おうとは考えていません。

それなので、長男と長女は遺産分割協議書を作成して、会社が使っている不動産の名義を長男に変えられるように手続きをしました。

めでたしめでたし。

果たしてそうでしょうか?

亡くなった父は、会社の代表者でした。

中小企業では、銀行融資に必ず代表者の個人保証を求められます。

長男が社長を引き継いで各金融機関にあいさつに行く際に、うまく亡父の個人保証を抜いてもらえればよいでしょう。

しかし、経営の苦しい会社です。

そうこうしているうちに経営が傾き、銀行とも険悪になって、倒産。

回収に走る銀行が、亡父の連帯保証責任を長女も相続していることを主張して・・・ という事態も起こらないとも限りません。

というか、起こります。

では、その個人保証の請求を受けた時点で相続放棄をすればいいじゃないかと思うでしょうが、そう簡単にはいかないのです。

というのも先のケースでは、不動産や株式について遺産分割協議がなされています。

家族経営の会社ですので、株式については明確な遺産分割協議はなかったかもしれませんが、不動産については登記のために遺産分割協議書を作成しているはずです。

これが、「法定単純承認」にあたります。

この法定単純承認というのに該当してしまうと、原則として、遺産分割協議後に相続放棄はできないのです。

ただ、極めて例外的に、このようなケースでも、長女が亡父の個人保証のことを知らず、銀行から請求された時点で初めて知ったという場合に、遺産分割協議をしていても、なお相続放棄が可能だとした裁判例もあるようですが。

そのような相続放棄が認められるかどうかは、事業への関与度、生活の本拠、親族間の交流、経営状況についての認識など様々な事情を勘案して決まることだと思いますので、救済されるかどうかは不確定です。

やはり、何も相続しない、という場合には、きちんと家庭裁判所で相続放棄をしておくということを考えに入れるべきです。

初めの相続とは?のところで書いたように、相続は経済的な財産や負債の問題です。

相続を放棄したからと言って亡父との親子関係の心情に何らの影を落とすものでおまりません。

特に、自営業者の方、住宅ローンのある方は、要注意なのです。


念のため、もう一つのケースを。

例えば、夫婦で住宅ローンを組み、住宅を買いました。

夫が主債務者。

妻が連帯債務者か、連帯保証人とします。

住宅ローンの支払いを始めたばかりで、子ども2人も小さい、そんなよくある家庭の状況で、たとえば、妻に先立たれてしまったとします。

夫は、働きながら子供二人を育て、住宅ローンを払い続けました。

ですが、それも限界に。

不況の波にのまれて、仕事を失い、ついには住宅ローンを支払うことができなくなってしましました。

夫は自己破産を考えて、弁護士に相談に行きました。

弁護士「奥様がお亡くなりになられた際、お子様2人は相続放棄をしていますか?」

夫「・・・」

良くあるケースです。

しかも、このケースでは子ども二人を救済するのがなかなか困難です。

というのも、普通、子ども二人は未成年ですから、母親の債務(保証債務)を相続したなんてことは、父親に言われて、この時初めて知ることになるのかもしれまん。

そうであれば、子どもら二人はこのときに相続放棄をすればいいじゃないか、とも思うでしょうが、そう簡単ではありません。

というのも、子どもの相続放棄については、子どもが未成年の場合には、親権者である父親が「子どもらのために相続の開始があったこと」を知った時に熟慮期間が始まります。

その父親は、自らが主債務者であり、当然母親が連帯債務者(連帯保証人)であることを初めから知っています。

なにしろ、契約書に並んで署名してあるのですから。

すると、妻が亡くなった時点で、自分と子どもらに、妻の債務(保証債務)が相続されたことを知っていたはず、と見られてしまいます。

そのため、通常は、妻が亡くなったその時に、子どもらの相続放棄に関しても、親権者である父親が知っていた、ということになるでしょう。

子どもらは、未成年であっても相続する資格はありますので、若くして多額の借金を背負うということになるのです。

では、この場合はどうしておけばよかったでしょう?

住宅ローン以外には借金がないという前提で考えてみます。

ケースは二つに分かれます。

①不動産が夫の単独名義で、妻にはほかに何も相続財産がなかった場合

この場合は、夫と子供らの全員が相続放棄をすればよいでしょう。

夫と子供らの全員が同時に相続放棄をする場合には、夫は父親として子どもの代理人になれるとされています。

子どもらだけの相続放棄でも良いですが、その場合は特別代理人の選任が必要です。

②不動産が夫婦の共有、または、妻にはほかに相続財産がある場合

この場合には、子どもらだけ相続放棄をして、夫が相続すればよいでしょう。

この場合は、子どもらの相続放棄の申述を父親が代理するということはできません。

父親は子どものために特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。

その後、家庭裁判所に選任された特別代理人(おじいちゃんとか、おじさんとか)が子どもらの代理人として相続放棄をしてあげてください。

ここで注意ですが、①か②の手続きをすると、子どもが全員放棄したことにより、今度は祖父母(亡くなっていれば兄弟姉妹)が相続人となります。

順次、相続を放棄してあげる必要があるでしょう。

もし、②の場合で、祖父母や兄弟姉妹に、不動産の持ち分を狙う不穏な空気があるという場合は、問題がややこしくなりますが、住宅ローンの責任も負うのだということを説明してあげれば、通常は、放棄に応じてくれるでしょう。

いずれにしても、相続放棄は結構大事ですよ、ということを繰り返し言いたかったわけです。