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遺言の無効を争う

遺言書が見つかった場合、それが有効であることを前提とするかどうか、遺言書の内容が不満である側は一度は検討しなくてはならない問題です。

遺言の有効性は、利害関係のある人から、遺言無効確認請求という裁判が出され、それに対して判決が出ることで決着します。

手続的なお話は、遺産分割その前にのところで解説したとおりです。

では、実際、どのような事例で遺言の有効性が争われているのでしょうか。

どういう事情・証拠があれば、遺言を争うことも視野に入ってくるのか、というきわめて実践的な内容です。

遺言の無効については、大きく分けて二つのパターンがあります。

一つは、方式に欠けるために無効となる場合

例えば、自筆証書遺言で印鑑がないとか、日付がないとか。

形式的に判明するものもあれば、公正証書遺言の証人が公証人の使用人だった、というような調査によってわかるものもあるでしょう。

遺言書の無効が争われた具体例では、

他人の添え手があった場合(無効)

大阪高裁昭和58年3月16日
他者の添え手を受けて作成された自筆証書遺言は、原則として無効である。

東京地裁昭和59年6月18日
第三者が手を添えた場合には、一般的には遺言者の筆跡の特徴が失われることが多く、またそのため後日遺言書が当該遺言者によつて作成されたものであるか否かをめぐる紛争が生じ易く、かつその場合にその判断が困難となるうえ、第三者の意思が加わる虞れが生ずるものであるから、原則としては第三者が手を添えることによつてなされた自筆証書遺言は無効というべきである。

タイプ印字の場合(無効)

東京高裁昭和59年3月22日
その末尾にタイプ印書された不動産目録(第一ないし第三)が添付されているが、同遺言書は、右目録と対比することにより、はじめて控訴人に相続させるべき目的物を特定し得るものであることがその記載自体から明らかであるうえ、当審証人の証言によれば、右目録は、司法書士である同人がその事務員に命じてタイプ印書させたものであることが認められる。
してみると、タイプ印書された右不動産目録は、本件遺言書中の最も重要な部分を構成し、しかも、それは遺言者自身がタイプ印書したものでもないのであるから、右遺言書は全文の自書を要求する民法九六八条一項の要件を充足しないことが明らか

拇印の場合(有効)

最判平成元年2月16日
押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもって足りるものと解するのが相当である。

誤字訂正の場合(有効)

最判昭和56年12月18日
自筆証書中の証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正については、たとえ同項所定の方式の違背があつても遺言者の意思を確認するについて支障がないものであるから、右の方式違背は、遺言の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である

などの判例が出ています。

もう一つのパターンの、遺言者の意思能力がなかった、というものに関しては、

名古屋高裁平成5年6月29
本件遺言当時、遺言行為の重大な結果を弁識するに足るだけの精神能力を有しておらず、意思能力を欠いていたものと認めるのが相当であり、本件遺言は無効というべきである。

東京地裁平成4年6月19日
本件遺言公正証書作成当時、アルツハイマー型老年痴呆により記憶障害及び理解力、判断力が著しく低下した状態にあり、本件遺言をなしうる意思能力を有しておらず、本件遺言は無効である。

宮崎地裁日南支部平成5年3月30日
意思能力の有無は法律的判断であるが、その判断に当たっては、その者の精神医学上の精神能力の状態を前提にした上でなすべきである。
しかし、それ以外にも、当該法律行為当時のその者の言動や法律行為の内容等を検討した結果、右精神医学上の精神能力からの推認を覆せる事実が認められれば、それに従って、精神医学上の精神能力から推認される結論にもかかわらず、なお意思能力がなかったことはいえないと判断することは可能である。

などの判例があるようです。

他にも判例は多く、多くの事例で争いになっていますが、その事情は様々です。

立証活動がどこまで可能か、当時を知る証拠や関係者の証言などがどういうものでどのような状態かなど、難しい見極めが必要な場合が多いので、通常は一度や二度の法律相談では方針を立てることすら難しく、弁護士による法律鑑定を要するケースの一つです。