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遺留分を行使する?

遺留分を行使できるか、すべきか。

遺留分は、相続人(兄弟姉妹を除く)に与えられた権利なので、行使するもしないも自由です。

ただ、まずはその前提として、「遺言書や生前贈与があったとしても自分が相続できる権利」が、遺留分に足りているのか、いわゆる「遺留分が侵害されているかどうか」の問題を考えなくてはなりません。

では、遺留分がどのくらいかはどうやって計算するのでしょうか。

ありがたいことに民法に書いてあります。

(遺留分の算定) 第千二十九条

  遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

文章で読むと分かりにくいですが、要は、

「相続開始時の相続財産」+「贈与した財産」−「相続財産の中の負債」

をベースに、誰に遺留分がある?で解説した遺留分の割り振りに従って、自分の取り分(遺留分)を計算すればよいことになります。

ただ、相続財産の中に債務がある場合は次のように計算するのが判例です。

最高裁判所の判例を見てみましょう。

最判平成8年11月26日
被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法一〇二九条、一〇三〇条、一〇四四条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。

呪文のような条文ですね。

具体例で見たほうが早そうです。

父親Aが亡くなり、相続人として、妻Bと兄Cと弟Dがいるとします。

父親Aは、思うところあって、兄Cにすべて相続させるという遺言書を書きました。

一方、弟Dには亡くなる直前に1000万円ほど贈与しています。

父親Aが亡くなった際の、相続財産は、預金7000万円と借金2000万円がありました。

さて、相続開始後、妻Bと弟Dは、遺留分減殺請求権を兄Cに対して行使しようと考えました。

どう考えていけばいいでしょう?

まず、遺言書がなかった場合の基本原則を押さえるのがセオリーです。

法定相続分は、妻1/2、兄1/4、弟1/4、ですね。

まず可分債務であるい借金は法定相続分に従って自動的に割り振られます。

 妻B 借金1000万円
 兄C 借金500万円
 弟D 借金500万円
ですね。

次に、預金7000万円について遺産分割をすることになります。

この際、弟が生前に1000万円を贈与されていますので、特別受益が問題になりそうです。

これを特別受益と捉えると

相続財産7000万円+特別受益の持ち戻し1000万円=8000万円を、法定相続分で分けることになり、

 妻B 預金4000万円
 兄C 預金2000万円
 弟D 預金1000万円+(特別受益1000万円)
という形になりそうです。

さて、今回のように遺言書があった場合は、どうでしょう。

遺言書(兄に全部)が有効であるとすれば、相続分はこうなります。

 妻B 借金1000万円  預金0円
 兄C 借金500万円   預金7000万円
 弟D 借金500万円   預金0円+(特別受益1000万円)

では、遺留分が侵害されているかどうかを見てみましょう。

妻Bは、生前贈与もなく、遺言書でも何も貰えていないので、遺言書の存在によって遺留分を侵害されているものと思われます。

妻Bの遺留分額を具体的に計算してみましょう。

ここで、先ほどの計算式が出てきます。

「相続開始時の相続財産」+「贈与した財産」−「相続財産の中の負債」

「現金7000万円」+「弟への生前贈与1000万円」−「負債2000万円」=6000万円

この6000万円の2分の1が遺留分額ですので、6000万円×1/2=3000万円が(全員あわせた)遺留分額ですね。

妻Bの法定相続分は、2分の1ですので、3000万円×1/2=1500万円。

これに妻Bが負う相続債務を足します

1500万円+1000万円(相続債務)=2500万円

ということで、妻Bは、2500万円分の遺留分減殺請求権を行使する余地があるということになります。

1000万円の負債を相続してもなお1500万円はプラスになるので、相続放棄をせず、遺留分減殺請求権を行使しても良いかもしれませんね。

弟Dはどうでしょう。

同じように6000万円の2分の1が遺留分額ですので、 6000万円×1/2=3000万円が(全員あわせた)遺留分額ですね。

弟の法定相続分は、4分の1ですので、 3000万円×1/4=750万円。

ここから特別受益を引きます。

750万円−1000万円(特別受益)=▲250万円 この時点でマイナスになってしまう場合は、弟Dには遺留分はないとされています。

そのため、遺留分がないとすると、反対に、借金500万円の相続を免れるためにも、相続放棄を検討する必要があるかもしれませんね。

なお、この計算において、相続人が受けた特別受益は、かなり古いものでも加えられます

期間制限はないというのが一般的な考え方のようです。

最判平成10年3月24日
民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。

一方で、相続人以外になされた生前贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限られます

ただ、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときには、一年前の日より前にしたものについても、計算に加えられるので注意が必要です。

さらには、上の例では特別受益の持ち戻しをしていましたが、この特別受益に持ち戻し免除の意思表示がなされたいた場合に、遺留分の計算にどう影響するかで考え方が分かれているようです(が、解説しません)。

また、遺留分と寄与分についても解説しませんのであしからず(結論としては、遺留分のほうが優先されるって感じです。埼玉弁護士会の本を読んでね)。


さてさて、次に大事なところ、遺留分減殺請求権の行使方法について、解説します。

おなじみの民法には、残念ながら行使方法については書かれていません。

結論から言うと、遺留分の権利者が遺留分を侵害する相手に「遺留分減殺請求権を行使します」と意思表示をすればよいとされています。

意思表示、つまり意思を表示するための一番の方法は、顔を見ながら言葉でしゃべる、という方法ですので、それでも良いです。

ただ、言った言わない、であとでもめるといけませんから、手紙で出す方が確実です。

また、普通の手紙だと、着いてないとか、なくしたとかでもめるといけませんから、郵便局の内容証明郵便を利用するのがさらに確実です。

遺留分減殺請求は、あとで解説するように、行使する期限が決められていますので、いつ送ったかわかるように配達証明付きの内容証明郵便を利用するのが一般です。

遺留分減殺請求は、すべての生前贈与やすべての遺贈(いぞう)から取り戻すというものではなく、自分の遺留分を確保するために行使する権利ですので、その範囲や順序が決められています。

具体的には、遺贈→贈与の順番です。

遺贈(遺言書の中でもらったもの)がいくつかある場合には、全部の遺贈を同時に対象とします。

贈与がいくつかある場合には、新しい贈与から順に対象とします。

先ほどの内容証明郵便でのお手紙も、この対象となる相手に送ることになります。

こうしたルールに従って、自分の遺留分額を満たすだけのものを取り返す、というのが遺留分減殺請求権です。

結構、難しいでしょ。

そこまで考えてから遺留分減殺請求の通知を、内容証明郵便で出すことになるのですが、それには期限が設けられています。

期限の定めはこうです。

(減殺請求権の期間の制限) 第千四十二条

  減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

簡単に言うと、亡くなったことを知り、かつ、遺言書があって自分の遺留分が侵害されたんだってわかったときから1年間、ということです。

遺言書があることを早めに知ったのであれば、被相続人が亡くなってから1年間の間には行使したいところですね。

この1年間という期限の間に、相続人・相続財産を調査して、資産を評価し、特別受益・生前贈与を確認して・・・とやることは山積みです。

多くの場合は、この遺留分の検討も含めて、相続放棄の熟慮期間である3か月以内に考えなければならないので、本当に大変ですよね。

次は、遺留分減殺請求権を行使した後のことを解説していきましょう。