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行使したらどうなる?

いろいろ考えてやっぱり遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)を行使することとしました。

文案をインターネットで検索し、郵便局で内容証明郵便を出しました。

配達されたとのハガキが届き、さて、これで・・・どうしたら・・・よいのか?

遺留分減殺請求の手紙を送ったところ、すぐ相手から支払いを申し出てくる、なんて風に進めばよいのですが、多くの場合そうは問屋がおろしません。

返事がない、文句の電話が来る、弁護士から反論がくる、など相続と遺留分にまつわる物語はここからスタートします。

遺留分減殺請求権は、一般には形成権(けいせいけん)と呼ばれています。

そう書いても、法学部で真面目に授業に出ていた人しかわからないでしょうが、要は『権利を行使すれば、それだけで権利が実現する』権利であるということです。

まだ分かりにくいでしょう。

こう考えましょう。

弁護士「貸したお金を返してもらう権利があるとします。」

弁護士「これを貸金の返還請求をする権利(貸金返還請求権)がある、と言います。」

弁護士「しかし、この権利は、「返せ!」と意思を伝えただけでは、権利は実現しません。だって、返せと言っても返さない人もいますからね。」

弁護士「実際に返してもらってはじめて、権利が実現します。」

弁護士「形成権はこれとちょっと違います。」

弁護士「遺留分減殺請求権を行使します、と意思を伝えただけで、遺留分を取り戻す権利は実現してしまうのです。」

相談者「・・・でも、お金とか渡してもらわないとだめじゃん。」

弁護士「いえ、そのお金もすでに遺留分減殺請求権を行使した人のものになっていて、それを相手が持っているだけ、と考えるのです。」

相談者「・・・返してもらえないことは同じゃないの。」

弁護士「そこについては、返してもらうという請求権をどう実現するかという話なので相手が応じてこない場合にはその後に様々な手続きが必要ですが、すでに権利が実現していると考えるかどうかで、その手続きの種類が違ってくるということが重要なところなのです。」

相談者「・・・一般人には理解しがたいな。」

弁護士「ですよね・・・」

やっぱり分かりにくかったですね。

具体例で説明してみると、例えば、相続財産が土地しかなく遺言書でその土地を誰かに全部やる、と書いてあったとします。

1/4の遺留分額を持っている人が遺留分減殺請求権を行使する手紙を送った場合、その手紙がついた段階で、その土地の4分の1は、遺留分を行使した人の所有物になります。

あとは、共有者同士の話し合いと同じように、共有で登記するか、土地を分筆するか、売って精算するか、などを協議すればよいのです。

相談者「なるほど、その後は遺産分割協議と同じようなことが起きるのね」

弁護士「そうですね。まぁ、似ている部分もありますし、違う部分も・・・」

この弁護士は、歯切れが悪いですね(^^;

遺産分割協議では、共有する相続財産を各人の固有の財産に帰属させるために遺産分割をしました。

一方、包括遺贈などで遺留分が侵害され遺留分減殺請求権が行使された場合は、行使された時点ですでに各人の固有の財産になってますので、固有の財産の共有状態を解消する手続がおこなわれるだけ、という捉え方になります。

ただ、相続分の指定が遺留分を侵害しているというような場合は遺産分割協議になる場合もあるので、上の弁護士は歯切れが悪いのです(良く分かってる証拠なのですよ)。

なので、遺留分減殺請求権を行使した後の様々な手続きは、普通の地方裁判所や簡易裁判所で行われるのが原則なのですが、家庭裁判所で行われる場合も多々あります。

実際にも、共同相続人の間での遺留分減殺請求権の行使の場面では、遺留分額の算出の際に特別受益が考慮されたり、遺言書が無効だとか、相続人の範囲だとかの相続がらみの前提問題とごっちゃになっていることがほとんどです。

なので、そうした前提問題を含めて、あえて家庭裁判所の調停を利用するケースもあります。

裁判所もこれに対応していて、家庭裁判所の審判でも遺留分減殺請求の問題について扱えるとした裁判例もあるようです。

最判昭和41年3月2日
常に民事訴訟による判決の確定をまつてはじめて遺産分割の審判をなすべきものであるというのではなく、審判手続において右前提事項の存否を審理判断したうえで分割の処分を行うことは少しも差支えないというべきである。
けだし、審判手続においてした右前提事項に関する判断には既判力が生じないから、これを争う当事者は、別に民事訴訟を提起して右前提たる権利関係の確定を求めることをなんら妨げられるものではなく、そして、その結果、判決によつて右前提たる権利の存在が否定されれば、分割の審判もその限度において効力を失うに至るものと解される

ただ、調停は相手が応じなければ話し合いになりませんので、話し合いが決裂した場合には、遺産分割協議はあきらめて審判に移行するか、遺留分減殺請求を行う順序に従ってターゲットを定めて、土地であれば共有物分割請求や、現金・預金であれば不当利得返還請求権を行うといった個別の請求を行っていくことになるでしょう。

調停などせず、初めから地方裁判所で訴訟をすれば良かったということにもなりかねませんが、共有物分割請求いんついても事前の協議が必要とされていますので、あながち無駄でもありません。

なお、遺留分減殺請求は相手が相続人とは限りません。

その場合も地方裁判所で調停・訴訟をすることになるでしょう。

いずれにしても、どの手続をとれば良いかを専門家に相談することがとても重要です。

相談者「これまでの解説だと、遺言書でもらったと思っていても、遺留分減殺請求権を行使されると、土地でも預金でもちょっとずつ遺留分権者に権利が生じるということですよね。」

弁護士「そうですね。」

相談者「もらった側はびっくりだね。この土地はもらったー、と思っていたのに。」

弁護士「そうですよね。」

弁護士「ただ、民法はやさしいところもあって、生前に被相続人がその土地は彼にやろう、とか思って贈与や遺言をしたわけだからそれを尊重しようという制度もちゃんと用意しています。」

相談者「へー」

条文をみてみましょう。

(遺留分権利者に対する価額による弁償) 第千四十一条

  受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。

とあって、要は、遺言書で何かをもらった人は、それを返す代わりにお金を払えば返還する義務を免れることが出来るよ、という制度です。

お金を実際に払ったり、受け取れるように準備して提示したりすることが必要ですが、この条文をたてにして遺留分減殺請求を逃れる道もあるというわけです。

相談者「なるへそ。うまくできてるもんだな。」

相談者「まぁ、遺留分の争いもここまでくるともう一般の人の手には負えないね。」

相談者「やっぱり弁護士に頼んだ方がよさそうだ。」

そうでしょうね。

ここで解説した内容は全部包括遺贈などの場合(「すべて相続させる」などの遺言書)の共有関係についてのケースで、遺言書の内容次第では、遺産分割協議を必要とする共有状態になることもありますので、やはり弁護士に詳しく検討してもらったほうがよいでしょう。

東京高裁昭和60年8月27日
ところで、被相続人が特定の相続財産を特定の共同相続人に取得させる旨の遺言をした場合には、特別の事情のない限り、これを右特定の財産の遺贈とみるべきではなく、遺産分割において右特定の財産を当該相続人に取得させるべきことを指示する遺産分割方法の指定(民法908条)とみるべきものであり、もし右特定の財産の価額が当該相続人の法定相続分を超えるときは、相続分の指定(同法902条)を併せ含む遺産分割方法の指定をしたものと解するのが相当である。
本件公正証書遺言においても、前記のとおり、「遺産分割の方法として・・・分割取得することを指定する」との文言があり、かつ、右特段の事情を認めるべき証拠もないことに徴すると、同遺言における前記各人の取得分の指定は、それぞれに対する遺贈ではなく、相続分の指定を併せ含む遺産分割方法の指定をしたものと認めるのが相当であり、これを動かすに足りる証拠はない。
そうであるとすれば、本件公正証書遺言が有効であるとしても、同遺旨自体によつて当然に相続人各人がそれぞれの取得分につき単独所有権を取得しうるものではなく、法律の定める遺産分割の手続において右遺旨の指定及び遺留分に関する規定に従つて遺産の分割が実施されることにより、初めて、相続開始の時に遡つて各人への権利帰属が具体化するものであるから、いまだ右遺産分割の手続が行われていないことが弁論の全趣旨から明らかな本件においては、本件建物はなお遺産共有の状態にあり…

なお、この場合でも遺留分減殺請求前に遺産分割協議が終了していた場合は、通常の共有になるようで、遺留分はやっぱりむずかしいなぁ、ということです。