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特例ができました

遺留分に関しては、平成20年10月から「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」という法律が施行されていて、民法の特例を定めています(遺留分の特例の施行は、平成21年3月から)。

そこでは、「特例中小企業」において、「旧代表者」から「後継者」に対して生前に株式を贈与した際に、贈与によって保有する議決権株式が過半数になった場合に、次の2種類の合意をすることができるというものです。

合意のひとつは、「除外合意」。

合意のもうひとつは、「固定合意」です。

これらの合意をして、合意から1か月以内に経済産業大臣に確認を受けて、確認から1か月以内に家庭裁判所の許可を申し立てて許可を得ることができれば、将来の相続の際に遺留分の特例の効果を得ることができます。

この特例は新しくできたもので、私も使った経験はないのですが、利用するに当たっては次のところを確認しておくことが必要です。

 ①「特例中小企業」に該当するか
 ②「旧代表者」から「後継者」に該当するか
 ③株式の保有数、贈与の対象数などが要件を満たすか
 ④合意の内容をどうするか?
 ⑤確認・許可の手続について

です。一つずつ見て行きましょう。

①「特例中小企業」の定義

見て行きましょうと言いつつ、この解説は飛ばします。どこかほかで確認してみてください。

②「旧代表者」

ここでいう旧代表者は、いわゆる代表取締役だった人です。

ただ、現に代表取締役でも良いようです。

例えば、代表取締役「社長」から代表取締役「会長」に退いたなんていう場合も、旧代表者でしょう。

昔の有限会社には、代表取締役を置いていないところもありますので、その場合は取締役であれば足りるでしょう。

②「後継者」

後継者は、旧代表者の推定相続人であることが必要です。

また、この制度を使う際には、議決権の過半数を保有し、かつ、特例中小企業の代表者であることが必要です。

なお、旧代表者から他の推定相続人に贈与されたものを、その推定相続人から後継者が相続・遺贈・贈与によって取得したときにもこの制度は使えるようです。

③株式の保有数・贈与の対象数

贈与等によって過半数の議決権を持つ株式を得た、ということが必要です。

例えば、15%はすでに親から買い取っていて、今回40%を贈与で譲り受けることになったとか。

反対に、この合意を使う以前から過半数をもっていては使えません。

ただ、過去の贈与であってもそれについて特例の合意をすることはできるので、どの時点の贈与について特例を使うかで、工夫の余地はありそうです。

④合意の内容をどうするか?

合意には2種類あります。

「除外合意」は、贈与の対象となった株式について遺留分の基礎となる財産に算入しないという合意です。

遺留分を行使する?で解説したように、遺留分の基礎となる財産は、次のように計算します。

 「相続開始時の相続財産」+「贈与した財産」-「相続財産の中の負債」

この「贈与した財産」に株式を加えない合意というわけです。

もうひとつの合意が「固定合意」です。

固定合意は、贈与を受けた対象株式の評価額を、贈与をした時の価額に固定する合意です。

分割の方法・基準の最後のところで解説したように、相続財産の評価は、相続開始時が基本です。

遺留分の基礎財産も相続開始時の価額が基本です。

そのため、これから株式をもらった後、後継者が一生懸命頑張ると、特別受益となって持ち戻す部分も増えていくという矛盾した関係になってしまいます。

固定合意はそのためのものです。

贈与をした時の価額の評価は、弁護士・公認会計士・税理士等が証明した金額によります。

株式の評価方法はいろいろあるので、ここでは解説しません。

合意は、書面で、全員が署名又は実印による記名押印をして行います。

全員、というのは推定相続人全員のことで、旧代表者は含まれません。

この合意には、後継者が対象株式を処分した場合、旧代表者の生存中に後継者が代表者として経営に従事しなくなった場合のことについて、予め、定めておかなければなりません。

なお、除外合意・固定合意をした際には、株式以外の財産についても除外合意・固定合意をすることができます。

これには二通りあって、旧代表者→後継者、旧代表者→他の推定相続人のパターンがあります。

旧代表者→後継者のケース

この場合は、会社の株式のほかに会社が使用している個人名義の土地や建物などを贈与しておくといった場面でしょう。

旧代表者→他の推定相続人のケース

この場合は、除外合意・固定合意をするさいに他の推定相続人から何か交換条件が出てきたような場合に対応するためのものでしょう。

さて、ここまできて合意ができると、いよいよ手続きに入ります。

⑤確認・許可の手続きについて

 合意を書面で作成
    ↓
 (合意から1か月以内)
    ↓
 経済産業大臣に確認申請
    ↓
 (確認から1か月以内)
    ↓
 家庭裁判所に許可の申立

という流れです。

経済産業大臣に確認申請をするのも、家庭裁判所に許可の申し立てをするのも、後継者が単独でできます。

この「単独でできる」というのが結構ミソで、このため遺留分の放棄の許可申立よりも利用が促進されるという狙いがあるはずです。

このように努力してようやく除外合意・固定合意を手にするのも、ひとえに将来の紛争を予防するためです。

何しろ、遺留分に特例を設けなければならないというのは、

 遺言書に相続人が納得しない
    ↓
 遺留分減殺請求権を行使する
    ↓
 株式や事業資産の比重が高くて事業継続に支障が出る

という恐れがあるためです(株価のインセンティブもありますが)。

なので、そもそもそういうもめごとに発展しない家族であれば、遺言書も遺留分の特例も無用の長物といえるでしょう。

とはいえ、備えあれば憂いなし。

遺留分の特例は、合意の時点で相続人間の公平を配慮するように設計されていますので、ぜひ制度を活用して円滑な事業承継と相続紛争の予防に役立ててください。